社説:障害者差別解消法 誰にも優しい社会へ <毎日新聞 2013年07月03日02時30分>
この国は障害のある人にとって優しい社会だろうか。都市部の駅ではエレベーターの設置が進み、障害者雇用率も伸びている。しかし、障害者への温かい視線や自然でさりげない助けを外国の街で見かけたりすると、考えてしまう。グループホーム建設を周辺住民から反対される、障害を理由にプールの利用を断られる、「シンショー」と差別的な言葉を投げつけられる……。そんな例は身近にいくらでもある。 米国の障害者差別禁止法(ADA)が成立した1990年以降、同法制定の波は世界中に広がっていった。2006年には国連障害者権利条約が採択され、すでに批准した国・地域は130を超えた。日本はまだ批准していない。政治体制や宗教や経済水準にかかわらず障害者差別は各国共通の課題なのである。違うのは、差別の存在を認め取り組んでいる国なのか否かという点だ。 遅れていた日本だが、障害者差別解消法がこの通常国会で成立した。直接的な差別だけでなく「合理的配慮」義務も盛り込まれた。例えば、入社試験で障害を理由に不利な判定をしないだけでなく、採用後に職場の段差をなくし障害特性に合ったコミュニケーション方法を導入するなどの合理的配慮を、過重な負担のない範囲で課すことを意味する。 国や自治体など公的機関には合理的配慮を法定義務とした。民間は努力義務にとどまるが違反した場合には監督官庁から指導を受ける。虚偽の報告などには20万円以下の罰金が科されることがある。教育、医療、福祉、公共交通、サービスなどの分野ごとに詳細なガイドラインを定め、合理的配慮を例示するという。 これまではグループホーム建設などの際、行政は周辺住民の同意や説明会の開催を事業者側に求めてきたが、この法律では行政が住民の啓発や調整に責任を持つなど、国や自治体に差別解消の責務があることが明示された。政府は差別解消の基本方針を定め、分野ごとに直接差別や合理的配慮の具体例を分かりやすく示したガイドラインを定める。 中央には紛争解決機関を置かず、国のすべての出先機関と地方自治体が主体となる「差別解消支援地域協議会」を設置し、紛争になった際は障害当事者も交えて解決に当たる。 3年後の施行に向けてガイドライン作成やモデル事業が実施されるが、混乱したり無力感に縛られたりして差別を自覚できない人も多い。啓発や相談活動を通して潜在的な差別の掘り起こしに努めるべきだ。それぞれの違いを理解し合い、多様性や包容力のある社会を目指したい。障害者だけでなく、すべての人に優しい社会にしなければならない。 http://mainichi.jp/opinion/news/20130703k0000m070141000c.html |
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