iPS研究 実用化を進める法制度が要る(2013年2月15日 読売新聞)
iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った治療の実用化へ、意義ある第一歩となるだろう。目の難病「加齢黄斑変性」をiPS細胞で治療する理化学研究所(神戸市)の臨床研究が、実施先の先端医療センター病院で承認された。理研チームは厚生労働省に審査を申請する。承認されれば、患者で効果や安全性を確かめる臨床研究が2013年度にも始まる。この病気は加齢に伴い、網膜細胞の一部に障害が出て視力が低下するものだ。失明の恐れもある。根本的な治療法はない。国内の患者は約70万人とされる。今回は、傷んだ網膜に患者のiPS細胞から作った細胞シートを貼り付けて視力の回復を図る。 iPS細胞は、がん化の危険性が指摘されるが、網膜を含む目の組織はがんになりにくい。拒絶反応もほとんどない。それだけに、この病気の治療が臨床研究の先陣を切ったのだろう。 問題は、この研究で十分な成果が得られても、実用化の段階では厚労省の承認までに時間がかかりかねないことである。 まず法制度が整っていない。 医薬品が承認を得るには、薬事法で規定された手続きを取らねばならない。だが、自己の細胞を使うiPS細胞による治療には、人体にとって異物である薬とは異なる審査の基準が必要である。 承認の仕組みも見直すべきだ。iPS細胞を使用していない再生医療でも、承認までに手間取っている。皮膚、軟骨などが韓国、米国で次々に製品化されているのに、日本はわずか2製品だ。 韓国では、一定の安全性が確認された再生医療製品に「仮承認」を与え、開発を促進している。 日本でも仮承認し、販売後に安全性データを蓄積して本承認とするなど、迅速に実用化する仕組みを検討すべきだ。 今回のような臨床研究を、心臓や血液など他の病気に広げる支援も重要である。政府はiPS細胞による再生医療や薬の開発に10年で1100億円を支援する。継続的に研究拠点を整備すべきだ。 ただ、「再生医療」への期待に便乗し、安全性に疑問のある治療まで出現している。厚労省は、これを新法で規制する方針だ。安全は大切だが、正当な研究に支障が出ないようにしてもらいたい。 iPS細胞を作製した山中伸弥・京都大教授のノーベル賞受賞に象徴されるように、日本は基礎研究でトップレベルにある。実用化でも後れを取ってはならない。 |
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