中絶胎児によるOEG移植 後悔せず(2012年7月19日 読売新聞)
「移植するOEG(嗅(きゅう)神経鞘(しょう)グリア細胞)を培養しなければならないので、少し待ってください」 2004年6月4日、中国・北京の大学病院に入院した北海道のSさん(46)は、主治医からそう告げられた。屋根からの転落事故で脊髄を損傷し、足が動かなくなったため、中絶胎児のOEGによる脊髄の再生医療を受けに来たのだ。 入院して7日後の6月11日午前9時30分、手術室に入った。全身麻酔を受けてうつぶせになった。損傷を受けた部位の上下2か所を5センチほど切開された。背骨も切り開かれ、脳脊髄液が流れている部分にOEGを注射のようなもので注入された。その後、脳脊髄液を囲むくも膜や皮膚などを縫合して手術は午後1時30分に終了した。輸血は必要なかった。 この治療を受けると、多くの患者が神経の痛みを感じるとされる。ほかの患者は痛みを抑えるために脳脊髄液を抜いたりすることもあったが、Sさんは問題なかった。 10日間の安静後、主治医から「足を動かすことに意識を集中させてください。それが神経に伝わります。それとリハビリをしっかりやってください」と言われた。しかし、リハビリ計画は示されず、結局、入院中は、ほとんどリハビリをしなかった。 CT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像)検査の結果を見た主治医から「良くなっている。でも、効果が現れるのは移植後、数か月たってから。効果は2年ほど続くだろう。日本でリハビリを続けてください」と言われ、7月1日に退院し、帰国した。 移植を仲介した日本人男性側に治療費などとして計280万円を支払った。 帰国後、リハビリ施設に通ったり、自宅で自転車こぎをしたり、リハビリを熱心に行った。しかし、現在まで、効果は感じられない。日本人11人が2004年2〜9月にOEG移植を受けたことが明らかになっている。Sさんは、そのうち数人と今でも交流があるが、「効果があった」という人は、ほとんどいないという。日本人患者はほぼ全員、同じ日本人仲介者を介して移植を受けた。 Sさんは「どんな細胞を移植されているのか、どのくらいの量なのか、などブラックボックスで分からないことも多い。また、有効性を示す明確なデータが示されておらず、もし効果があっても、リハビリの効果かもしれないですし。でも、自分が選んでOEG移植を受けたので、後悔はしていません」と言い切った。 中絶胎児を使うことに倫理的な批判をする声もあるが、「批判する意味は理解できますが、正直言えば、脊髄損傷が治るなら、何でも治療を受けたいというのが本音です。中絶胎児は捨てられるのなら、使わせてほしい、という思いです」と話す。 今も下半身は不自由で車いすでの生活だが、上半身は問題ない。一人で風呂に入れるし、車の運転もできる。現在、不動産業を営む。 「この生活に慣れ、それほど不自由に感じないのですが、やはり、立って歩くようになりたいですよね。脊髄損傷になってから、生きることはどういうことか、何が人生で大切か、を考えるようになりました。自分一人では生きられないことを痛切に感じました」 「だから、他人のために何かをしたい。今、足が動くようになったら、東日本大震災の被災地で復興のためのボランティアをしたいと思っています。そのためにも、再生医療がもっと進歩してほしいです。日本で治療が受けられるようになるといいですね」 ちなみに、OEG移植は現在、行われていないようだ。 |
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